免疫組織データベース~いむーの



c-kit (CD117)

2006年1月30日

(CD117)

 

メーカー: DAKO ウサギポリクローナル

希釈倍率: x400

抗原賦活化法: 圧力鍋

(上記は一例に過ぎません。抗体は必ずしも全てのメーカーを比較して選択しているわけではありませんので、必ずしも”推奨メーカー”という意味ではありません。)

推奨陽性コントロール: 消化管、GIST

染色パターン: 細胞膜+/-細胞質

***ここまで北大病理部での条件***

 

以下、札幌医科大学医学部病理診断学 長谷川 匡先生

性状:膜受容体型チロシンキナーゼで, 細胞の分化・増殖に関与

分布:メラノサイト, 生殖細胞, 肥満細胞, カハールの介在細胞, 肥満細胞症, セミノーマなどの胚細胞腫瘍, 胸腺癌, GIST, ユーイング肉腫の一部など

 

GISTとその他の間葉系腫瘍におけるKIT免疫組織化学染色

1. GISTのKIT免疫組織化学染色

KITはチロシンキナーゼ活性を有する細胞膜貫通蛋白で、正常のカハール細胞、肥満細胞に陽性となる。GIST以外のc-kit遺伝子変異に関連したKIT陽性腫瘍として肥満細胞症、セミノーマなどの胚細胞腫瘍、急性骨髄性白血病がある。その他にも、胸腺癌、腺様嚢胞癌、血管肉腫、悪性黒色腫、肺小細胞癌、ユーイング肉腫などにKITが陽性であると報告されているが、病理所見で多くはGISTと鑑別可能である。  KIT免疫染色において、腫瘍細胞の細胞質と膜にバックグラウンドレベル以上の特異的な染色が認められればKIT陽性と判断する。GISTの90%以上の症例では細胞質にKITが中等度から強陽性で、細胞膜にも種々の程度に陽性となる。またGISTの胞体とともに核周囲、特にゴルジ領域にKITがドット状に局在する場合がある。細胞質と膜のKIT染色性が強い部分と弱い部分が不均一に混在するGISTも存在する。部分的な陽性像や腫瘍細胞の10%以下にしか染色されない時にはその解釈に注意が必要である。他の免疫染色と同様に、KIT染色陰性は解析した細胞・組織においてその抗原が存在しなかったということでなく、検出されなかったと理解される。後述するが少数例のGISTはKITを発現しないことが知られている。したがって、KITが陰性であってもGISTの診断を除外するものではない。偽陰性であるかどうかを確認するために他のKIT抗体を用いなければならない場合もある。GISTと他の間葉系腫瘍との鑑別には、臨床所見、肉眼・組織形態所見、他の抗体を加えた免疫染色パネルの結果(表1)1)、遺伝子変異解析を総合して判断することが重要である。もちろん、非定型的な症例で診断に自信が持てないと感じたら、間葉系腫瘍の診断に精通した経験ある病理医にコンサルテーションするのがもっともよい。

表1 GISTと他の紡錘形細胞腫瘍との免疫染色による鑑別(文献1より抜粋)

組織型 KIT(%) CD34(%) Desmin(%) SMA(%) HCD(%) S-100(%) NSE(%)* Beta-catenin(%)*
GIST(n=211) 211(100) 192(91) 8(4) 65(31) 167(79) 16(8) 57(81) 0
胃(n=177) 177(100) 173(98) 8(5) 42(24) 147(83) 6(3) 40(80) 0
胃以外(n=34) 34(100) 19(56) 0 23(68) 20(59) 10(29) 17(85) 0
平滑筋腫瘍
        平滑筋腫(n=12) 0 0 12(100) 12(100) 12(100) 0 0 0
平滑筋肉腫(n=18) 0 0 18(100) 18(100) 18(100) 0 0 0
末梢神経鞘腫瘍
        神経鞘腫(n=14) 0 7(50) 0 0 0 14(100) 3(21) 0
線維性腫瘍
        孤在性線維性腫瘍(n=17) 0 17(100) 0 0 0 4(24) 3(18) 4(24)
デスモイド型線維腫症(n=25) 0 0 5(20) 21(84) 0 0 16(64) 25(100)

 注)SMA, smooth muscle actin; HCD, h-caldesmon; NSE, neuron-specific enolase *NSEとbeta-cateninの免疫染色はGIST70例(胃50例、胃以外20例)で検討した

2. KIT免疫組織化学染色の注意点と問題点

KITの免疫染色は治療の上で潜在的な意義を持ち、したがって免疫染色の偽陽性や偽陰性を避けるために、最も広く用いられている抗KIT抗体を至適濃度で用いることが重要である。その際、間質に浸潤している肥満細胞(mast cell)はKIT免疫染色のよい内因性陽性コントロールになる。陰性コントロールとして血管平滑筋はKIT陰性である。陰性コントロールがKIT抗体で陽性となった場合は、非特異的反応・偽陽性が生じた可能性があるので、妥当な染色結果といえない。  加熱処理による抗原賦活化を行ってABC法やLSAB法で免疫染色を行うと、GIST以外の腫瘍で非特異的反応、偽陽性を生じる場合が多いので、KIT免疫染色を行う際には抗原賦活化を行うべきでないとする主張がある。酵素標識ポリマーの検出システムを用いたKIT免疫染色ではこのような偽陽性を生じることはほとんど無い。また、種々の固定条件で作製されているホルマリン固定パラフィン包埋組織で再現性の高い、信頼性のある免疫染色結果を得るためには日常の病理診断業務において抗原賦活化を省くわけにはいかない。KIT陰性のGISTが多く生じること、すなわち偽陰性によって患者が不利益を被らないためにもKIT免疫染色の標準的なプロトコールとして抗原賦活化と酵素標識ポリマーに基づいた検出システムが強く推奨される。  現在、GISTの病理診断においてダコ社のポリクローナル抗KIT抗体が、各種臨床試験および実際の診断において世界的に汎用されている。しかし、この抗体を初め各社の抗体は研究用試薬として販売されているが、体外用診断用医薬品としては承認されていない。標準化されたKIT免疫染色に基づいて適正にイマチニブ治療が適応されるために本邦においても一刻も早い承認および保健適用が望まれる。

3. GISTの遺伝子変異検索の臨床病理学的意義

GISTの80?90%には、KITチロシンキナーゼの活性型、すなわち腫瘍発生の原因と考えられるc-kit遺伝子の突然変異がみられる。突然変異のうち最も多いのは、傍細胞膜領域をコードしているエクソン11の様々な点突然変異や欠失・重複であり、全GISTの70~80%にみられる。細胞外領域(エクソン9)の重複が5~10%に、チロシンキナーゼ領域I(エクソン13)とチロシンキナーゼ領域II(エクソン17)の点突然変異がそれぞれ1%前後に認められる。GISTの10~20%にはc-kit遺伝子の変異はみられないが、その約半数にc-kit遺伝子と相同性を持つチロシンキナーゼPDGFRα遺伝子の突然変異が認められる。突然変異は傍細胞膜領域(エクソン12)とチロシンキナーゼ領域II(エクソン18)にみられ、いずれも機能獲得性突然変異であり、そのGISTの発生原因となっている。残りの約10%のGISTにはc-kit遺伝子にもPDGFRα遺伝子にも変異が認められない。  これらのc-kitおよびPDGFRα遺伝子変異はいずれもKITやPDGFRα蛋白のチロシンキナーゼを恒常的に活性化し、腫瘍細胞の自律的増殖を引き起こす。イマチニブはKITやPDGFRα蛋白のキナーゼ活性を特異的に阻害することで切除不能/転移性GISTに対して画期的な臨床効果をもたらすが、その効果はc-kitおよびPDGFRα遺伝子の変異部位により異なることが知られて いる。今までのイマチニブの臨床試験の結果から、c-kit遺伝子のエクソン11変異例はエクソン9変異や非変異例に比べてイマチニブの奏功率が高く生存期間が延長していることが示されている2,3)。PDGFRα遺伝子変異例は患者数が少なく十分な解析はできていない。  先にも述べたように、90%以上のGISTにおいては免疫染色上KITが陽性で、イマチニブの治療対象病変とされる。GIST全体では約5%と少数ではあるが、KITが検出されないGISTの多くにPDGFRα遺伝子の変異が認められている。また、c-kit遺伝子変異を持つ症例も少数含まれている。一方、PDGFRα遺伝子変異を持つGISTの多くは形態学的に類上皮型あるいは混合型であり、通常のGISTと比べるとKITの発現は弱い4)。われわれの経験では、粘液腫状間質を背景に類上皮細胞がまばらに配列しKITの発現の弱いGISTであれば約90%にPDGFRα遺伝子変異が認められる。その多くは胃に発生し、予後がよい傾向にある5)。しかしながら、PDGFRα遺伝子変異はこのような形態学的特徴を持つGISTに特異的なものではないので、総合的に判断してGISTとみなされるにも関わらずKITが検出されない場合には、遺伝子変異解析の必要性が高い。その結果、c-kitもしくはPDGFRα遺伝子に確かな突然変異が見つかればGISTの診断を確定できる。また、KIT免疫染色と同様に、現在広く行われているホルマリン固定・パラフィン切片を用いた遺伝子変異解析では回収されたゲノムDNAの量や質は様々であり、両方の遺伝子変異が検出できなくても変異が無いと断定できるものではない。したがって、KITの発現が無く遺伝子変異が認められない形態学的にGISTに合致する症例は、他の間葉系腫瘍が除外できるのであれば現時点でGISTと分類しておくことは妥当といえる。いずれにせよ、遺伝子変異のタイプを決定してイマチニブの効果予測についての情報を得ることは臨床的に意義がある。

4. その他の悪性骨軟部腫瘍におけるKITの発現

骨軟部肉腫におけるKITの発現率は報告者によってばらつきはあるが、非常に低いというのが一般的な結論となっている6)。我々が行った418例の骨軟部肉腫におけるKITの染色結果をみると(表2)、ユーイング肉腫ではKITが1+以上の染色性を示す症例が多く(60%)、平滑筋肉腫(27%)、血管肉腫(13%)にもKITが多少発現しているが、その他の腫瘍は陰性か極めて低い陽性率である1)。このことと、GIST以外ではc-kit遺伝子のみならずPDGFRα遺伝子変異がほとんど検出されないことから考えると7)、骨軟部肉腫においてイマチニブ治療の適応性はきわめて低いと考えられる。

表2 主な骨軟部肉腫におけるKITの発現(文献1より抜粋)

組織型 症例数 KITの染色強度* 陽性(%)(1+以上)
0 1+ 2+ 3+
線維肉腫 11 11 0 0 0 0
平滑筋肉腫 11 8 3 0 0 3(27)
粘液型脂肪肉腫 52 52 0 0 0 0
高分化型脂肪肉腫 50 50 0 0 0 0
粘液線維肉腫 53 52 1 0 0 1(2)
悪性末梢神経鞘腫瘍 18 17 1 0 0 1(6)
多形型悪性線維性組織球腫 44 44 0 0 0 0
滑膜肉腫 42 40 0 2 0 2(5)
ユーイング肉腫 20 8 7 4 1 12(60)
退形成小円形細胞腫瘍 6 6 0 0 0 0
神経芽腫 11 10 0 0 1 1(9)
淡明細胞肉腫 15 14 0 0 1 1(7)
血管肉腫 30 26 0 4 0 4(13)
骨肉腫 20 20 0 0 0 0
横紋筋肉腫 35 35 0 0 0 0
合計 418 22(5)

*0, negative; 1+, weak staining; 2+, moderate staining; 3+, strong staining

文献

1) Yamaguchi, U., Hasegawa, T., Masuda, T. et al.: Differential diagnosis of gastrointestinal stromal tumor and other spindle cell tumors in the gastrointestinal tract based on immunohistochemical analysis. Virchows Arch 2004; 445: 142-150

2) Heinrich, M.C., Corless, C.L., Demetri, G.D. et al.: Kinase mutations and imatinib response in patients with metastatic gastrointestinal stromal tumor. J Clin Oncol 2003, 21: 4342-4349

3) Heinrich, M.C., Shoemaker, J.S., Corless, C.L. et al.: Correlation of target kinase genotype with clinical activity of imatinib mesylate in patients with metastatic gastrointestinal stromal tumors expressing KIT. J Clin Oncol 2005, 23: 3S

4) Kondo, S., Yamaguchi, U., Sakurai, S. et al.: Cytogenetic confirmation of a gastrointestinal stromal tumor and Ewing sarcoma/primitive neuroectodermal tumor in a single patient. Jpn J Clin Oncol 2005, 35: 753-756

5) Sakurai, S., Hasegawa, T., Sakuma, Y. et al.: Myxoid epithelioid gastrointestinal stromal tumor (GIST) with mast cell infiltrations: a subtype of GIST with mutations of platelet-derived growth factor receptor alpha gene. Hum Pathol 2004; 35: 1223-1230

6) Hornick, J.L., Fletcher, C.D.M.: Immunohistochemical staining for KIT (CD117) in soft tissue sarcomas is very limited in distribution. Am J Clin Pathol 2002; 117: 188-193

7) Sihto, H., Sarlomo-Rikala, M., Tynninen, O. et al.: KIT and platelet-derived growth factor receptor alpha tyrosine kinase gene mutations and KIT amplifications in human solid tumors. J Clin Oncol 2005; 23: 49-57

GIST

gastrointestinal stromal tumor (GIST):紡錘形細胞が中等度の細胞密度で束状に配列する

GIST-KIT

紡錘形細胞の細胞質と膜にc-kit蛋白が陽性

 

 

執筆日:2006/1/18→1/30小修正

執筆者:札幌医科大学医学部病理診断学 長谷川 匡先生(本文)

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