免疫組織データベース~いむーの



Mucin (MUC)

2007年5月16日

粘液(ムチン)の免疫染色

I. 粘液とムチン

消化管や気道などの上皮細胞が産生・分泌する”粘液”の主成分は”ムチン”とよばれる高分子糖蛋白であり,蛋白骨格(コア蛋白,アポムチン)にクラスター状の糖側鎖を多数有する,分子量40万以上の巨大分子からなる.最近では,従来の分泌粘液≒ムチンだけでなく,同様の分子構造を有し,いくつかの共通の生化学的特徴を呈する一群の分子群をムチンと称しており,ムチンの概念は拡大している.以下では,粘液とムチンという用語をほぼ同義として使い,最近の拡大した概念の意味で使うものとする.

 

II. ムチンの分類

(1)分泌型ムチンと膜結合型ムチン

分泌型ムチン:上皮細胞から分泌される,従来の意味での粘液の主成分であり,ムチン分子はゲルを形成する.

膜結合型ムチン:細胞膜に結合しており,従来の分泌粘液≒ムチンに対して,拡大された概念の意味でのムチンである.ムチン分子は細胞外ドメイン,膜貫通ドメイン,細胞内ドメインを有し,細胞膜を貫通する形で存在する.

(2)コア蛋白による分類

ムチンは基本的にコア蛋白の種類によって分類されている.コア蛋白は”MUC”と略称され,発見順にMUCの後ろに番号をつけて呼ばれている.現在までに20種類程度のムチンが報告されている.

分泌型ムチン,膜結合型ムチンとの関係では,主なムチンのうち,MUC1,MUC3,MUC4は膜結合型ムチン,MUC2,MUC5AC,MUC5B,MUC6,MUC7は分泌型ムチンに分類される.

 

III. 主なムチンの正常組織における存在部位

コア蛋白 分泌型/膜結合型 主な存在部位
MUC1 膜結合型 膵腺房中心細胞・介在部,乳腺
MUC2 分泌型 小腸・大腸(とくに杯細胞),気道
MUC3 膜結合型 小腸,大腸,胆嚢
MUC4 膜結合型 大腸,気道
MUC5AC 分泌型 胃腺窩上皮細胞
MUC5B 分泌型 食道腺細胞,気道,唾液腺
MUC6 分泌型 胃幽門腺・噴門腺,胃副細胞,十二指腸Brunner腺,食道噴門腺
MUC7 分泌型 唾液腺

正常組織のおける以上のような局在から,通常,MUC5AC,MUC6は胃型(それぞれ,胃腺窩上皮型(胃表層型),幽門腺型)の粘液(ムチン)形質のマーカー,MUC2は腸型(杯細胞型)の形質マーカーとして扱われている(Ⅳの(4)も参照).

 

IV. ムチン(粘液)の免疫染色とその実際

ムチンの構造が明らかとなり,それらに対する抗体が作製されるようにったことによって,通常の病理組織標本(ホルマリン固定パラフィン包埋切片)上でのムチンの局在を免疫染色で観察することが比較的容易にできるようになった.  以下,われわれが染色経験のあるムチンの免疫染色(MUC1,MUC2,MUC5AC,MUC6)に関して実際的な事項を記載する.

(1)抗体  MUC1,MUC2,MUC5AC,MUC6ともに,市販抗体としては,Novocastra Laboratories社のモノクロナール抗体(下表)が最もよく使われているものと思われる.

コア蛋白

クローン

自験での希釈倍率

MUC1

Ma695

1:100

MUC2

Ccp58

1:100

MUC5AC

CLH2

1:50

MUC6

CLH5

1:50

(2)免疫染色の方法  自験では,0.01Mクエン酸緩衝液pH6.0中で121℃,5分のオートクレーブ処理による抗原賦活後,ENVISION法(DAKO)による染色で良好な結果を得ている.自験における一次抗体の希釈倍率は上表の通りである. VENTANA社やDAKO社の自動免疫染色装置を使用した染色も経験しているが,それぞれのマニュアルに従った抗原賦活処理後,上記とほぼ同様の染色結果が得られている.ただし,一次抗体の希釈倍率に関しては,1:50 ~ 1:200の範囲で調整を行っている.陽性コントロールとしては,3の表に示したような正常組織を使用することができる.

(3)病理組織におけるムチン(粘液)免疫染色の実際例

1) Barrett食道上皮,Barrett食道腺癌  典型的なBarrett食道上皮(従来から特殊円柱上皮specialized columnar epitheliumと称されてきた)は,胃の不完全型腸上皮化生上皮に類似した腺上皮である.MUC5ACが陽性,また,杯細胞および一部の円柱上皮にMUC2が陽性となり,胃腸混合型の粘液形質を呈する.ちなみに,上記Novocastra社の抗体では,MUC2は杯細胞の粘液周囲に強く陽性となる.Barrett食道上皮は深部に噴門腺型の腺房組織を伴っていることが多く,この腺組織はMUC6が陽性となる.  Barrett食道腺癌(欧米でいうところのhigh grade dysplasiaも含む)は高分化型腺癌が多く,その粘液形質は胃型,胃腸混合型,腸型と様々であるが,胃腸混合型を呈するものが多い.表層側の癌腺管にMUC5ACが陽性,深部の癌腺管の一部にMUC6が陽性となり,非腫瘍性のBarrett食道上皮に類似したorganoidな構築を呈するところもみられる.また,MUC2は杯細胞型の腫瘍細胞が陽性となる場合と,杯細胞の形態を呈していない円柱状の腫瘍細胞が陽性となる場合がみられる.

2) 胃の化生上皮,胃癌  胃の腸上皮化生上皮のうち,完全型腸上皮化生上皮の場合は杯細胞にMUC2が陽性となる.不完全型腸上皮化生の場合は,Barrett食道の特殊円柱上皮同様MUC5ACが陽性となり,杯細胞にMUC2が陽性となる.化生上皮深部にみられる幽門腺はMUC6陽性となる.なお,粘液(ムチン)ではないが,細胞の腸型(とくに小腸型)分化の指標としては,刷子縁のマーカーであるCD10の免疫染色が同時に行われる(刷子縁が存在する場合は,管腔縁に線状に陽性となる).一方,偽幽門腺化生の場合はMUC6が陽性となり,同時にMUC5ACが陽性の場合もみられる.  胃分化型腺癌の粘液形質は,Barrett食道腺癌同様,胃型,胃腸混合型,腸型の場合がみられ,やはり胃腸混合型を呈するものが多い.胃型形質が主体の分化型腺癌はときに粘膜側増殖部での細胞異型が弱く,浸潤深部で非充実型低分化腺癌の組織像に移行する.一方,印環細胞癌は胃型形質を呈するが,浸潤・増殖の過程で一部がMUC2陽性を呈することがあり,腸型形質化をみる.以上の胃癌組織ではいずれも,表層側にMUC5AC,深部側にMUC6が陽性となりorganoidな構築を呈する場合のあることは,Barrett食道腺癌の場合と同様である.

3) 大腸過形成性ポリープ・腺腫,大腸癌  大腸過形成性ポリープ,鋸歯状腺腫を含む,いわゆる”serrated polyp”は,MUC5ACに陽性になることが多く,胃腺窩上皮型の形質がみられやすい.また,過形成性ポリープでは腺底部にMUC6が陽性となることもある.その意味では化生的な性格を有する病変とも考えられる.  大腸原発の腺癌の多くは腸型の粘液形質を呈するが,一部ながらMUC5ACが優位であるものがみられる.散発性の大腸癌でもみられるが,潰瘍性大腸炎を背景に発生した腺癌で頻度が高い.そのような大腸癌は浸潤部で粘液癌化しやすい.典型的な大腸絨毛状腫瘍(villous tumor)はlow grade malignancyと考えられるが,MUC2とともにMUC5ACが陽性となりやすい.絨毛状腫瘍も浸潤すると粘液癌の形態をとりやすい腫瘍のひとつである.

4) Pancreatic intraepithelial neoplasia (PanIN),膵管内乳頭粘液性腫瘍 (intraductal papillary mucinous neoplasm: IPMN),浸潤性膵管癌  従来,小膵管上皮の化生,過形成,異形成などと様々な名称で呼ばれてきた病変は,Johns Hopkins大のグループが提唱したPanIN分類によって,異型度の低い方からPanIN-1 ~ PanIN-3と称されるようになった.PanINはその異型度にかかわらず高頻度にMUC5ACが陽性となる.また,PanIN上皮の基底部には幽門腺様の所見と伴うことが多いが,その部分はMUC6陽性を呈する.PanINはMUC2陰性である.  膵IPMNの腫瘍上皮は組織学的に一様でないが,最も典型的なIPMNと考えられるタイプは大腸絨毛状腫瘍類似した像を呈するものであり(多くが主膵管内の増殖を主体とした大型の病変を形成),MUC5ACとMUC2の両者が陽性となることが特徴である.このタイプはIPMNに由来する浸潤癌を伴うことも少なくないが,浸潤癌の組織型としては通常型の浸潤性膵管癌の他,粘液癌がみられることが特徴であり,その場合は浸潤癌部もMUC5ACとともにMUC2陽性となる.通常型浸潤癌の場合はMUC1,MUC5ACが陽性となるがMUC2は陰性である.一方,分枝膵管を主体にみられるIPMNの場合はPanINに類似したMUC5AC,MUC6の陽性像がみられるが,ごく一部を除いて(通常,杯細胞型の細胞)MUC2陽性細胞はみられない.  浸潤性膵管癌は高い頻度でMUC1,MUC5AC陽性となる.

5) 胆管のintraductal papillary neoplasm  肝内・肝外胆管にも,膵のIPMNに類似した,胆管内乳頭状増殖と粘液産生を特徴とする上皮性腫瘍のみられることが知られている.膵IPMN同様,いくつかの組織形態および粘液形質を呈する腫瘍の存在することが報告されている.

MUC1

MUC1 (Ma695): 膵腺房中心細胞・介在部が陽性.

clip_image002

MUC5ACHGM

左:MUC5AC (CLH2):胃腺窩上皮が陽性,右:HGM (45M1):胃腺窩上皮が陽性

MUC2MUC6

左:MUC2 (Ccp58):腸上皮化生の杯細胞が陽性,右:MUC6 (CLH5):幽門腺が陽性

 

(4)注意事項・関連事項

1) 異なる抗体使用に伴うMUC1染色性の相違(米澤らによる文献参照)

ムチン分子における糖側鎖の付加状況にはバリエーションがみられ,異なる糖鎖付加状況のMUC1に対する抗体が存在する.同じ組織の免疫染色でも,それぞれの抗体によって染色性は若干異なる.Novocastra社の市販抗体にも,MUC-1 core(clone Ma552,コア蛋白を認識)および上記のMUC-1(clone Ma695,carbohydrate epitopeを認識)がある.

2) MUC5ACとhuman gastric mucin (HGM)(Shiroshitaら,中山らの文献参照)

Novocastra社からは上記の抗MUC5AC抗体の他,抗human gastric mucin (HGM) 抗体(clone 45M1)も市販されている.抗HGM抗体もMUC5ACに対する抗体であるが,糖鎖付加状態にかかわらず抗原と反応する.それに対し,抗MUC5AC抗体(clone CLH2)は,糖鎖の付加のないMUC5ACのみと反応するため,染色性が若干異なる.

3) MUC6とHIK1083 (M-GGMC-1)(Shiroshitaら,中山らの文献参照)

関東化学社の市販抗体であるHIK1083 (M-GGMC-1) は,ConAパラドックス染色で陽性となる,いわゆるIII型粘液(胃副細胞,幽門腺,噴門腺,十二指腸Brunner腺など)を特徴づける糖鎖(α1, 4-GlcNAc残基)を認識する.III型粘液形質を有する細胞の検出に関しては,HIK1083のほうがMUC6よりも厳密である.

4) Trefoil factor (TFF) とMUC5AC,HGM

Trefoil factor (TFF) は粘液(ムチン)ではないが,消化管の粘液産生細胞によって産生され,粘膜保護や修復に関与しているとされている.そのひとつであるTFF1(pS2)は,胃腺窩上皮に陽性となり,MUC5ACやHGMと類似した局在を示すため,胃腺窩上皮形質のひとつのマーカーとして扱われることがある(Novocastra者のpS2 polypclonal 抗体がある).

5) MUC2とCDX2  MUC2はムチンの一種であり,正常組織では杯細胞にみられ,腸型形質のマーカーとみなされる.一方,CDX2は腸型上皮の分化に関与する転写因子であり,免疫染色(自験ではBioGenex社の抗体(clone CDX2-88)を使用)では細胞核内に陽性となる.両者の発現は平行することも多いが,必ずしも両者が陽性となるわけではない.

 

References ・ 米澤 傑,他.PanIN,IPMN,IDC(浸潤性膵管癌)におけるムチン発現とその意義.胆と膵2005;26:105-113 ・ Shiroshita H. et al. Re-evaluation of mucin phenotype of gastric minute well-differentiated-type adenocarcinomas using a series of HGM, MUC5AC, MUC6, M-GGMC, MUC2 and CD10 stains. Pathol Int 2004;54:311-321 ・ 寺野 彰,他.トレフォイルファクター(TFF)と消化器疾患.日消誌2001;98:135-143 ・ 武藤弘行.Cdx2と胃癌.日消誌2005;102:986-993 ・ 中山 淳,他.胃腺粘液の組織化学と機能解析.第94回日本病理学会総会(2005年4月,横浜) 技術講習会(日本病理学会・日本組織細胞化学会合同)ハンドアウト pp45-50

 

 

執筆日:2007/5/16

執筆者:埼玉医科大学国際医療センター 病理診断科 伴 慎一

ページの先頭へ