StGallen consensus ~免疫染色結果による乳癌治療法の選択
注) この文書はあくまでも国際会議の結果の要約であり、個々の症例に関して最善の方法を示したものとは限りません。実際の治療法は総合的に判断されるものです。
St. Gallen(ザンクトガレン)会議とは、乳癌の初期治療に関する国際的合意を形成するために1978年に始まった国際会議で、現在では2年に1回開かれており、2009年3月には第11回会議が行われた。今回は、内分泌療法、抗HER2療法、化学療法の3つの治療法について、次に示すアルゴリズム(表1)が示された。
1.内分泌療法
内分泌療法に反応することが予想される症例、すなわちER陽性像が少しでもみられた症例に対してはadjuvant endocrine therapyが推奨される。ER-かつPGR+はアーチファクトの可能性が高く、再検を要するとされている。
2.抗HER2療法
(ASCO/CAP) guidelines(Wolff AC et. al. American Society of Clinical Oncology/College of American Pathologists guideline recommendations for human epidermal growth factor receptor 2 testing in breast cancer. J Clin Oncol. 2007 Jan 1;25(1):118-45)に従ってHER2陽性とされた患者は抗HER2の適応である。
3.化学療法
細胞障害性のある化学療法を行うかどうかを決定することは難しい。抗HER2陽性患者を適応される患者でも化学療法の併用もありうる。再発の危険があるtriple negativeの乳癌患者では、化学療法は術後療法のメインとなる。ただし、triple negativeであっても、比較的予後良好とされる特殊な組織型(髄様癌、アポクリン癌、腺様嚢胞癌など)で、腫瘍の大きさが小さくかつ腋窩リンパ節への転移もないような症例は再発リスクが低く、術後補助化学療法は必要でないと考えられる。ER陽性、HER2陰性の場合には特に化学療法の選択が難しくなり、その際には別表の内容を参考にして治療法が決定される。
表1. 治療のしきい値 (Thresholds for treatment modalities)
治療手段 |
適応 |
コメント |
内分泌療法 |
ERが少しでも陽性であれば |
ER陰性、PgR陽性はアーチファクトであり、起こりえない |
抗HER2療法 |
ASCO/CAPに準ずる 免疫染色で陽性細胞>30% または FISH 2.2×以上 |
臨床試験で使用された陽性の定義を使用してもよい |
化学療法 | ||
HER2陽性(抗HER2療法を併用) |
トラスツズマブ使用は化学療法と同時、または順次併用 |
ER強陽性、HER2陽性で化学療法非併用は論理的ではあるが根拠はない |
Triple negative |
ほとんどの患者 |
他に検証された選択肢はない。リスクの高い患者では特に必要 |
ER陽性、HER2陰性(内分泌療法を併用) |
リスクに応じて様々 |
表2を参照 |
表2. ER陽性、HER2陰性患者における化学・内分泌療法
化学内分泌療法に 相対的適応あり |
決定には役立たない |
内分泌療法のみ 相対的適応あり |
|
ERとPgR |
ER,PgRが低レベル |
ER,PgRが高レベル |
|
組織学グレード |
Grade 3 |
Grade 2 |
Grade 1 |
増殖能 * |
High |
Intermediate |
Low |
リンパ節 |
4個以上の転移 |
1-3個の転移 |
転移なし |
腫瘍周囲脈管浸潤 |
あり |
なし |
|
病理学的腫瘍径(pT) |
>5cm |
2.1-5cm |
≦2cm |
患者の好み |
有効な治療は全て受けたい |
副作用は避けたい |
|
多遺伝子解析による |
High score |
Intermediate score |
Low score |
*Ki-67 labeling indexで判断する(High:>30%, Intermediate: 16-30%, Low: ≦15%)
**パネルは、従来のマーカーを使用しても化学療法を追加すべきか不確かな場合、簡単に利用できるのであれば多遺伝子テストを使用することに同意した。
執筆日:2010.3.24
執筆者:神戸大学医学部附属病院病理診断科 神澤真紀,伊藤智雄