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cytokeratin(総論)

2010年11月12日

ケラチンは、上皮細胞の主な構造蛋白で、システインを多く含み表層に陰性チャージされるアミノ酸が豊富に分布している中間系フィラメントで、約20種類のサブタイプが知られている。分子量による分類では低分子ケラチン(40~54kD : CK7,8,17~20)と高分子ケラチン(48~67kD : CK1~6,9~16)に、pI(isoelectric point)による分類では酸性のTypeⅠケラチンと塩基性~中性のTypeⅡケラチンに分類される。その遺伝子は、TypeⅠケラチンが遺伝子クラスターとして染色体17q12-24に、TypeⅡケラチンが染色体12q11-13にコードされている。大部分のケラチン繊維はTypeⅠケラチン2本とTypeⅡケラチン2本が4量体を形成した形で発現する。

正常細胞でのケラチンの発現と組合せを表1に示す。癌細胞でのサイトケラチンの発現を検討することにより癌細胞の起源や亜型分類の類推が可能となるため、サイトケラチン発現検討は診断的意義が大きい。当部において診断用に用いている抗ケラチン抗体を表2に示し、それぞれの特徴を解説する。(順次アップ予定)。

表1.正常細胞でのケラチンの発現と組合せ

Ann NY Acad Sci 1985;455:282-306

表2.免疫染色に用いられる主なケラチンに対する抗体

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Ks20.8(CK20)

サイトケラチン20は、分子量46kDのTypeⅠケラチンの一種で、成熟enterocyteとgoblet細胞に発現している。

抗サイトケラチン20抗体は、正常細胞では消化管小窩上皮、腸管上皮、胃幽門上部の内分泌細胞、移行上皮、Merkel細胞に発現されている。悪性細胞では、胃癌・大腸癌・直腸癌・膵癌・胆道系癌・卵巣粘液性癌・移行上皮癌・Merkel細胞癌に発現を見る。また、大腸癌・直腸癌では高発現するのに対し胃癌では発現率が低くなることも知られて いる。一方で、扁平上皮癌・乳癌・肺癌・子宮癌・卵巣非粘液性癌・小細胞癌には発現を認めない。

総括的には、扁平上皮癌と肝細胞癌・子宮癌・卵巣非粘液性癌を除いた横隔膜より下の臓器の癌に発現するTypeⅠケラチンと言えることから、抗サイトケラチン20抗体は癌のorigin推定のための抗体として重要である。Moll R et al. Cytokeratin 20 in human carcinomas. A new histodiagnostic marker detected by monoclonal antibodies. Am J Pathol 140:427-47 (1992).

OV-TL 12/30(CK7)

分子量54kDの塩基性サイトケラチン。

抗サイトケラチン7抗体は、正常細胞では重層扁平上皮、肝細胞、大腸上皮、一部の前立腺上皮が陰性となるが、その他全ての上皮細胞と血管内皮が陽性となる。この抗体により腺細胞のサブグループ分別が可能。

腫瘍細胞では扁平上皮癌、肝細胞癌、腎癌、前立腺癌、大腸癌などが陰性。胃癌では陽性率は約50%で、それ以外の癌は強陽性となる事が多い。

CK20との組合せで腫瘍細胞の起源を推定することが可能となる(表3)。

表3 CK7/CK20の染色特性による腫瘍細胞の鑑別

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D5/16B4(CK5/6)

サイトケラチン5は重層上皮、移行上皮、混合腺、中皮細胞に発現する分子量58kDの塩基性サイトケラチンで、サイトケラチン6は増殖期の扁平上皮細胞に発現する分子量56kDの塩基性サイトケラチン。

抗サイトケラチン5/6抗体は、腺癌細胞は陰性であることから、低分化型扁平上皮癌と腺癌、上皮型中皮腫と肺腺癌の鑑別に有用である。

AE1/AE3(pankeratin)

AE1がTypeⅠのCK10/12/14/15/16/19を、AE3がTypeⅡのCK1/3/4/5/6/7/8を認識するためすべての上皮細胞・癌細胞に反応する。

低分化癌・未分化癌と非上皮性悪性腫瘍との鑑別に有用である。

CAM5.2

ほとんどの上皮細胞を認識する抗体。正常組織では扁平上皮以外の多くの上皮細胞で強陽性を示すが、膵ラ氏島の内分泌細胞や肝細胞は中等度の染色性しか示さない。扁桃組織では扁平上皮も中等度~強陽性となるが、FDC(follicular dendritic cell)は弱~中等度陽性である。また、食道の扁平上皮では陰性~基底細胞のみ中等度陽性となる。

腫瘍では、扁平上皮癌以外で強陽性となり、肺の神経内分泌細胞癌でも強陽性像を示す。

ワーキンググループ注※ CAM5.2は以前CK8/18あるいはCK8/18/19に対する抗体とされたが、最新のdatasheetでは主としてCK8、弱くCK7に反応する抗体とされており、CK18やCK19に関する記載はなくなっている。論文に書く際などには注意が必要です。なお、CK8/18(Biosystems clone5D3)は別の抗体であり、混同しないようにする必要があります。

34βE12(CK1/5/10/14)

CK1/5/10/14を認識。正常細胞では扁平上皮・腺上皮・複合上皮と反応し、肝細胞・膵の腺房細胞・近位尿細管・子宮内膜腺とは反応しない。非腫瘍病変では前立腺過形成と反応。腫瘍細胞では扁平上皮癌・乳癌・膵癌・胆管癌・唾液腺腫瘍・膀胱癌・鼻咽頭腫瘍・中皮腫の一部と反応するが、内分泌腺腫瘍・肝細胞癌・子宮内膜腺癌・腎癌とは反応しない。

RCK108(CK19)

サイトケラチン19は、分子量40kDの低分子ケラチンで、ほとんどの単層上皮と非角化型扁平上皮に存在し、角化型扁平上皮細胞・肝細胞・数種の腺房細胞には存在しない。

抗サイトケラチン19抗体は、正常細胞に対してはほとんどの腺上皮と重層扁平上皮の基底細胞と反応するが、乳腺と前立腺では陽性腺管と陰性腺管が混在し、非角化扁平上皮と毛嚢ではheteogenousな染色パターンとなる。皮膚の重層扁平上皮・皮脂腺・肝細胞・一部の精嚢細胞・内分泌細胞には反応しない。腫瘍細胞では、上皮性腫瘍の大部分と強陽性を示し、子宮頸部では腺癌同様扁平上皮癌も陽性となる。但し、乳腺では良性腫瘍でheterogenousな、悪性腫瘍でhomogenousな染色パターンを示す。一方、基底細胞癌とseminomaでは陰性となる。

Bartek, J. et al. (1985). Patterns of expression of keratin 19 as detected with monoclonal antibodies in human breast tissues and tumours. Int. J. Cancer. 36: 299-306.

DC10(CK18)

分子量45kD のサイトケラチンで、通常サイトケラチン8と同時にほとんどの単層腺上皮に発現する。

抗サイトケラチン18抗体は、正常細胞ではほとんどの腺上皮細胞と皮膚以外の重層扁平上皮の基底細胞に陽性となる。腫瘍細胞では、すべての腺癌、乳癌、膀胱癌、未分化癌、子宮頸癌、肝細胞癌が陽性となり、扁平上皮癌では一般に陰性。

Bartek,J., Vojtesek,B., Staskova,Z., Bartkova,J.,Kerekes,Z. Rejthar,A. and Kovarik,J.: A series of 14 new monoclonal antibodies to keratins: Characterization and value in diagnostic histopathology.J. Pathol.(1991)

E3(CK17)

分子量46kDのサイトケラチン。

抗サイトケラチン17抗体は、正常細胞では種々の重層上皮の基底細胞、唾液腺・汗腺・乳腺の筋上皮細胞、膵管上皮細胞、毛包細胞に陽性となる。腫瘍細胞では肺・子宮・口腔の扁平上皮癌、子宮頸部腺癌、一部の肺腺癌・乳癌(浸潤性乳癌の30%)に陽性となる。

また、子宮頚部では異型性増殖した上皮に陽性となり、上皮内の異型性の程度とサイトケラチン17の発現量に相関があるとの報告があり注目されている。

Troyanovsky, S.M. et al. (1989). Patterns of expression of keratin 17 in human epithelial dependency on cell position. J. Cell.Sci. 93: 419-426

 

 

執筆日:2005/1/27→順次追加2/1終了 2010/11/12小修正

執筆者:旭川医科大学病院病理部三代川 斉之先生

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