免疫組織データベース~いむーの



EpCAM (MOC31)

2013年12月25日

(Epithelial cell adhesion molecule,CD326)

 

Mouse monoclonal antibody

クローン:MOC31

メーカー:Dako (N1598)

希釈倍率:1:2

抗原賦活化:CC1、30分

推奨陽性コントロール:腸粘膜

染色パターン:細胞膜、細胞質

(上記は神戸大病理部での条件(Ventana BenchMarkXT)。抗体は必ずしも全てのメーカーを比較して選択しているわけではありませんので、必ずしも“推奨メーカー”という意味ではありません。)

 

同義語:17-1A antigen、289A、323/A3、adenocarcinoma-associated antigen、AUAI antigen、antigen identified by monoclonal antibody AUA1、CO17-1A、epithelial antigen、GA733-2、epithelial cell surface antigen、epithelial glycoprotein、epithelial glycoprotein-2、epithelial glycoprotein 34、epithelial glycoprotein 40、panepithelial glycoprotein 314、Epithelial specific antigen、epithelial surface antigen、gastrointestinal tumor-associated antigen 2、HEA125、KS1/4 antigen、KSA、lymphocyte antigen 74、M1S2、M4S1、membrane component chromosome 4 surface marker-1、MH99、MIC18、MK-1、tumor-associated calcium signal transducer 1、TROP1

 

EpCAMは上皮におけるCa2+非依存性相同細胞接着を取り次ぐ、グリコシル化したI型膜貫通糖蛋白である。30~40kDaで、314のアミノ酸で構成されている。細胞外ドメイン(242アミノ酸、EpEX)は、上皮成長因子やサイログロブリン反復様配列や単独膜貫通領域(23アミノ酸)で構成され、細胞内ドメイン(26アミノ酸、EpICD)は、アクチン細胞骨格に結合するためのαアクチンに対する2つの結合部位が存在する。EpCAMは細胞接着分子として知られているが、細胞接着分子の4大ファミリーである、カドヘリン、インテグリン、セレクチン、免疫グロブリンスーパーファミリーのいずれにも構造的には似ていない。EpCAMは細胞接着のみならず、細胞内シグナル、遊走、増殖、分化の役割も果たしている。c-mycやe-fabp, cyclin A, cyclin Eを亢進させることで腫瘍原性となる可能性も持つ。EpCAMの遺伝子座は2p21である。EpCAM遺伝子変異は、間接的ながら、Lynch症候群に関係している。すなわち、EpCAM遺伝子の3’末端領域が欠損することで、MSH2遺伝子のプロモーター領域の過メチル化によるMSH2遺伝子のエピジェネティックな不活化を生じさせる。EpCAM遺伝子変異はまた、Congenital tufting enteropathyに関連している。EpCAMは細胞膜表面及び細胞質に存在し、扁平上皮の表層、肝細胞、胃壁細胞、腎近位尿細管細胞、筋上皮細胞を除く上皮細胞に認められる。病理診断上、有名なクローンMOC31は34kDaと39kDaの二つの糖蛋白質を認識する。Ber-EP4とはクローンの違いである。

細気管支肺胞上皮

(正常組織におけるMOC31染色。左:細気管支、右:肺胞上皮。)

 

用途:

病理診断上、癌と上皮型悪性中皮腫との免疫組織化学的鑑別で、癌マーカーとして利用されている。

 

特に2003年以降の悪性中皮腫に関するNelson G. Ordóñez (MD Anderson Cancer Center)の研究成果を中心としてまとめられた、2012年IMIGコンセンサスによると、上皮型胸膜悪性中皮腫と肺腺癌、肺扁平上皮癌、上皮型腹膜悪性中皮腫と漿液性腺癌、膵・胆道・胃腸の腺癌の鑑別において、MOC31染色は有用な癌マーカーの一つとして紹介されている。但し、悪性中皮腫と癌の鑑別においては、先ずはそれぞれのマーカーから2つずつ染色することを推奨されており、単独で判断すべきではない。

 

文献:

Husain AN, Colby T, Ordonez, N, et al: Guidelines for pathologic diagnosis of malignant mesothelioma. 2012 update of the consensus statement from the international mesothelioma interest group. Arch Pathol Lab Med 137: 647-667, 2013

<上皮型胸膜悪性中皮腫と肺腺癌の鑑別>

抗体 有用性 染色部位 陽性率[%]
上皮型中皮腫 肺腺癌
上皮型中皮腫マーカー
 Calretinin 核、細胞質 100† 5 ~ 10*
 Cytokeratin 5 or 5/6 細胞質 75 ~ 100 2 ~ 20*
 WT-1 70 ~ 95 0
 D2-40 (podoplanin) 細胞膜 90 ~ 100 ~ 15*
肺腺癌マーカー
 MOC-31 細胞膜 2 ~ 10* 95 ~ 100
 BG8 (LewisY) 細胞膜 3 ~ 7* 90 ~ 100
 CEA (monoclonal) 細胞膜、細胞質 < 5* 80 ~ 100
 B72.3 細胞質 極少 75 ~ 85
 Ber-EP4 細胞膜、細胞質 ~ 20* 95 ~ 100
 TTF-1 0 75 ~ 85
 Napsin A 細胞質 0 80 ~ 90
◎, たいへん有用; †, 強くびまん性; *, 局所的

 

<上皮型胸膜悪性中皮腫と肺扁平上皮癌の鑑別>

抗体 有用性 染色部位 陽性率[%]
上皮型中皮腫 肺扁平上皮癌
上皮型中皮腫マーカー
 WT-1 ~ 95 0
 Calretinin 核、細胞質 100† 40*
 D2-40 (podoplanin) × 細胞膜 80 – 100 50
 Cytokeratin 5 or 5/6 × 細胞質 75 ~ 100 100
肺扁平上皮癌マーカー
 p63又はp40 7* 100†
 MOC-31 細胞膜 2 – 10* 97 – 100
 BG8 (LewisY) 細胞膜 3 – 7* 80
 Ber-EP4 細胞膜、細胞質 ~ 20* 85 – 100
 Cytokeratin 5 or 5/6 × 細胞質 75 ~ 100 100
◎, たいへん有用; ○, 有用; ×, 有用ではない; †, 強くびまん性; *, 局所的

 

<上皮型腹膜悪性中皮腫と漿液性腺癌、非婦人科腺癌(膵・胆道、胃腸)の鑑別>

抗体 有用性 染色部位 陽性率[%]
上皮型中皮腫
中皮腫陽性マーカー
 Calretinin 核、細胞質 85 ~ 100 0 ~38
 D2-40 細胞膜 93 ~ 96 13 ~ 65
 CK5/6 細胞質 53 ~ 100 22 ~ 35
 WT-1 43 ~ 93 89 ~ 93
漿液性腺癌マーカー
 MOC31 細胞膜 5 98
 PAX8 0 ほぼ100
 BG8 細胞膜 3 ~ 9 73
 Ber-EP4 細胞膜、細胞質 9 ~ 13 83 ~ 100
 B72.3 細胞質 0 ~ 3 65 ~ 100
 CEA 細胞膜、細胞質 0 0 ~ 45
 ER 0 ~ 8 93
 PR 0 < ER
非婦人科腺癌マーカー(膵・胆道、胃腸)
 Calretinin 核、細胞質 85 ~ 100 10%(膵)
 WT-1 43 ~ 93 3(胃)、0(膵)
 D2-40 細胞膜 93 ~ 96 0(胃、膵)
 CK5/6 細胞質 53 ~ 100 38(膵)
 MOC31 細胞膜 5 87
 BG8 細胞膜 3 ~ 9 89
 CEA 細胞膜、細胞質 0 81
 B72.3 細胞質 0 ~ 3 84(膵)、89(胆道)、98(結腸)
 Ber-EP4 細胞膜、細胞質 9 ~ 13 > 98(胃、膵)
 CDX2 0 90 ~ 100(結腸)、80(小腸)、70(胃)
◎, たいへん有用; ○, 有用; △, 時に有用; ☓, 有用ではない

 

肺腺癌1肺腺癌2

(自験例(肺腺癌)。上:H&E、下:MOC31染色。)

肺扁平上皮癌1肺扁平上皮癌2

(自験例(肺扁平上皮癌)。上:H&E、下:MOC31染色。)

 

 

執筆日:2013/12/25

執筆者:神戸大学医学部附属病院病理診断科 酒井康裕、柳田絵美衣、今川奈央子

ページの先頭へ