BRAF V600E
抗体名:VE1, BRAF V600E mutation-specific antibody, Roche(790-4855), mouse-monoclonal
染色パターン:細胞質
推奨陽性コントロール:陽性と判明している色素の少ない悪性黒色腫、sessile serrated lesionなど
BRAF V600E mutation(600番目のアミノ酸であるバリン(V)がグルタミン酸(E)に変わる遺伝子変異)は様々な疾患と関連し、現在急速にその応用範囲が広がっている。この変異があるとMAPK経路活性化から下流のERKおよびMEKの活性化につながり、異常な細胞増殖が起きる。BRAF阻害薬、MEK阻害薬の併用療法が有効であることから、臨床的にも重要な事項であり、今後の遺伝子パネル検査のさらなる普及が期待される。
なお、以下には免疫染色を超える内容も含んでいる。
1.有毛細胞白血病(hairy cell leukemia, HCLの診断
有毛細胞自体は同白血病に特異的ではなく、とくにHCL variant(HCL-v)やsplenic marginal zone lymphomaの鑑別はこれまで非常に困難であった。
近年BRAF V600E mutationがすべてのHCLに存在することが判明し(N Engl J Med 2011; 364:2305-2315)、本抗体が登場したことから、その病理組織学的に光明がもたらされた。
血液関係腫瘍ではほぼ特異的であり、鑑別となるようなリンパ腫はほぼ陰性と考えて差し支えない。
HCL32例 → 全例陽性
類似リンパ腫には陰性(8 SMZL, 6 splenic lymphoma/leukemia unclassifiable , 2 HCL-v, and 4 B-cell non-Hodgkin lymphoma unclassifiable)
228 mature B-cell neoplasmsのTMAではCLL一例のみに陽性
(Am J Surg Pathol. 2012 Dec;36(12):1796-800)
2.悪性黒色腫
日本人の悪性黒色腫の30%程度がBRAF変異をもつとされ、そのほとんどがV600Eである。悪性黒色腫ではパラフィン切片からコバス®BRAF V600 変異検出キットがある。
(文献:宇原久.メラノーマにおけるBRAFV600E変異の検出.モダンメディア61巻8号)
3.大腸癌およびcolorectal serrated lesion
BRAFV600E変異は進行再発大腸癌の約5%と稀であるが、極めて予後不良である。BRAFV600E変異陽性大腸癌ではエンコラフェニブ+ビニメチニブ+セツキシマブ療法(3剤併用療法)およびエンコラフェニブ+セツキシマブ療法(2剤併用療法)が、化学療法歴のあるBRAF V600E変異陽性大腸癌の新たな標準治療として推奨されている。
なお、colorectal serrated lesionにおいてBRAFB600Eは重要なイベントであり、serrated pathwayの大腸癌発生のキーである。下記論文ではVE1を用いた免疫染色とmutationがよく合致していたと報告されている。
4.甲状腺乳頭癌
乳頭癌の60割程度にBRAF変異がみられ、その多くがV600Eであり、予後不良因子である。
5.脳腫瘍
epithelioid glioblastoma(半数程度), 頭蓋内の pleomorphic xanthoastrocytoma(半数程度), ganglioglioma(半数弱), pilocytic astrocytoma (少数)など
6.肺癌
非扁平上皮非小細胞肺癌の約 1%と稀ながらBRAFV600E変異がみられる。特徴として、特に腺癌であること、喫煙者に多い傾向、その他のドライバー変異とは相互排他性があることが挙げられている。遺伝子パネルの普及が進むことが期待される。
(参考:日本肺癌学会「肺癌患者におけるBRAF遺伝子変異検査の手引き」)
7. Glomus tumor
下記論文によれば、良性のGlomus tumorの6%、uncertain malignant potentialの21%、malignantの12%にみられ、malignant phenotypeと関連している可能性が示された。
(Am J Surg Pathol. 2017 Nov;41(11):1532-1541.)
執筆日:2015年2月2日 2021/2/24追記
執筆者:神戸大学医学部附属病院病理診断科 伊藤智雄