抗体データベース

EGFR

(epidermal growth factor receptor:上皮増殖因子レセプター)

推奨陽性コントロール: 大腸癌陽性例

染色パターン:細胞膜

<総論>

EGFR とはチロシンキナーゼ受容体ファミリーのひとつで、細胞膜に存在する。EGFRは3つのコンポーネントからなる。すなわち1)細胞外リガンド結合ドメイン、2)膜貫通ドメイン、3)細胞質内チロシンキナーゼドメインである。いくつかの癌ではリガンド依存性および非依存性の受容体過剰発現により活性化され、下流に位置する細胞内シグナル伝達の結果、細胞の増殖、アポトーシス抵抗性、浸潤などが促進される。

抗癌剤の標的としてEGFRが注目され、まず1997年に抗EGFR モノクローナル抗体(mAb)が開発された。これは細胞外リガンド結合ドメインに結合し、リガンドであるEGFが結合した際の変形を阻害することでEGFRのチロシンキナーゼ活性を阻害するものであった。次いで開発されたのが、EGFRの細胞質内チロシンキナーゼドメインに作用する抗EGFR チロシンキナーゼ阻害薬のゲフィニチブgefinitibや erlotinibである。これらは当初、細胞質内チロシンキナーゼドメインのATP 結合部位に濃度依存性に競合的に結合して自己リン酸化を阻害すると考えられていたが、2004年にEGFR 変異例に有効であるとの画期的な報告により、現在は以下のように考えられている。すなわち、変異EGFRはリガンド非依存性に持続的なチロシンキナーゼ活性を有する一方でATP結合部位の構造が変化している。この構造の変化によりEGFRの細胞質内ドメインのgefinitibへの親和性が増す結果、下流へのシグナル伝達はより有効に阻害される。この種の変異EGFRは肺癌ではアジア人、女性、非喫煙者、腺癌にみられる頻度が高いことが報告されている。

<EGFR染色の結果判定と解釈>

腫瘍細胞がEGFRタンパクを発現している場合、EGFR免疫組織化学染色標本において腫瘍細胞の細胞膜に一致してDABによる褐色の陽性シグナルが認められる。

結腸癌組織におけるEGFR染色の結果は陽性細胞の有無により判定がなされる。わずかでも細胞膜に陽性シグナルが認められた場合判定は「陽性」となる。シグナルパターンが連続性可動化やシグナル強度は問われない。

EGFR陰性:全ての腫瘍細胞において細胞膜への染色性が認められない。(染色標本における腫瘍細胞の陽性率は0%)
EGFR陽性:染色体度が連続性あるいは不連続性にかかわらず、腫瘍細胞の細胞膜に染色性が認められる。(染色標本における腫瘍細胞の陽性率>0%)

執筆日:2009.9.16

執筆者:神戸大学病院病理部 川上 史