CD20(L26)
抗体:CD20 monoclonal (各社あり)
奨陽性コントロール:扁桃、リンパ節、虫垂など
染色パターン: 細胞膜 (熱による抗原賦活化では時に核に非特異的反応があるので注意)
反応性:正常ないし腫瘍性のB細胞
用途: 最も信頼できるB細胞性マーカーの一つ。
L26はB細胞性リンパ腫の診断には最も基本的な抗体である。我が国の札幌医科大学病理学第一講座で開発されたことは知っておくべきである。
■B細胞性リンパ腫か否か ~基本的な判断
正常であればBリンパ腫は瀘胞を形成する傾向にあるため結節性の集簇を示し、その間の領域には密ではなく散在性に陽性細胞が分布する(下図左)。これが正常の免疫学的な構造immunoarchitectureである。しかし、悪性リンパ腫ではこのパターンが崩れ、びまん性シート状かつ密な浸潤像となる(下図右)。
注)CD79aではこの原則は当てはまらない。形質細胞は反応性においてもびまん性となりうる(例)関節リウマチにおける滑膜炎など)。
(左)反応性の場合のL26:集簇傾向 (右)悪性リンパ腫:びまん性となる
この原則はリンパ節、節外いずれも同様である。目安としては対物x10レンズ1視野を超えるようなびまん性浸潤像で有ればおおむね悪性リンパ腫と言って良い。ただし、リンパ節においては辺縁部分は正常でもびまん性となりうるので注意しなければならない。また、胃生検や扁桃生検などの小型の検体ではその評価は容易ではなく、HE像、必要に応じて他の抗体を適用し判断する(CD5, CD43のaberrant expression、軽鎖制限(感度は低い), cyclin D1の陽性、CD10/bcl2の異常など)。
Pitfallとしては、リンパ節の辺縁部では、比較的濾胞間が近く、癒合している場合もあり、ここのみが標本面に出た場合はびまん性にみえ、overdiagnosisに繋がる可能性がある(下図)
■散在性の大型細胞を見たとき
正常のリンパ節において、瀘胞間にはimmnoblastsが散在する。大型の細胞で、濃淡のあるheterogeneousな染色を示す。この濃淡の存在(強陽性、弱陽性、細胞膜の一部のみ弱陽性などが混在)は大型細胞が反応性の一つの指標となりうる。diffuse large B-cell lymphomaやT-cell rich B-cell lymphomaでは一般的に単一な強陽性を示す。Hodgkin lymphomaホジキンリンパ腫のHodgin細胞やRS細胞も時に不均一な染色性を示す場合がある。(下図)
左;T-cell/histiocyte-rich T-cell lymphoma 右:反応性免疫芽球
CD79aもB細胞性マーカーとして良く用いられる。L26はCD79aよりもやや反応する範囲が狭く、幼弱な方では非常に未分化なpreceursor cellsには陰性、さらに分化した方では形質細胞には陰性である。また、CD79aは細胞質に陽性であることも差異である。CD79aも非常に有用な抗体であるが、通常の染色では(結果が信頼できるので有れば)L26のみでよいであろう。リンパ芽球性リンパ腫lymphoblastic lymphomaや形質細胞腫plasmacytomaなどが想定される場合はCD79aを加える。小細胞性リンパ腫small cell lymphomaもL26の染色性が弱い場合があり、CD79aも同時に染色したほうがよい。つまり、細胞が小型であるか、形質細胞様であるならばCD79aを加える。また、リンパ腫が疑われるのにも関わらずL26, CD3いずれも陰性の場合もCD79aを追加して確認した方が良い。さらにpyothorax-associated lymphomaやlymphoblastic lymphomaのようにL26陰性の大型細胞リンパ腫もある。CD79aも陰性のことがあるので要注意。
リツキサン治療後はCD20の発現が減弱したり完全に欠如することがが知られる(Seliem RM, Freeman JK, Steingart RH, Hasserjian RP. 他)。従って、リツキサン治療後にはCD79aやpax5等をパネルに加えるべきである。また、CD20の発現がlossしていることは確実に臨床に伝えるべきであろう。ただし、L26の認識するエピトープ(CD20細胞質内領域)とリツキサンの認識する部位(可変部領域)は別であることも理解しておかねばならない。また、フローサイトメトリーとの乖離を示す場合もある。
執筆日:2005/05/23 06/03/27追記 2024/10/04改変
執筆者:神戸大学病院病理部病理診断科 伊藤 智雄