免疫組織データベース~いむーの



北海道大学病院病理部における免疫染色のプロトコールおよび精度管理

2005年6月20日

コンセプト

●徹底した品質管理

●自動化・統一主義化による安定した品質

●医師・技師のコミュニケーションを

●全ての染色にコントロール。コントロールのない染色は信用しない。

北大における免疫染色の流れ ①午前10時までにオーダー

②薄切

③抗原賦活化(下記参照)

④自動免疫染色装置(Ventana)による染色

⑤染色上がり(午後4時頃)

⑥技師および医師による染色評価会にて不良染色の排除。免疫染色の適応や疾患の考え方など技師、若手医師に対する教育も兼ねる(毎日)

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   免疫染色オーダー用紙に設けられたチェック欄

⑦診断病理医へ

抗原賦活化について・・・

現在、免疫組織化学染色は診断病理の本質に関わる必須の方法であり、腫瘍の起源の決定、良悪性の決定など重要な手法となっている。適切な病理診断を行うためには、常に高感度でコントラストの高い良好な染色結果を得ることが重要である。免疫組織化学染色の偽陰性は、染色手技の誤りや抗体の失活を除けば、ホルマリン固定による抗原のマスキングの影響が大きい。しかし、抗原賦活化を行うことによって、ある程度までの染色性は期待できる。抗原賦活化の方法は免疫組織化学染色の品質に大きな影響を及ぼすものであり、安定かつ強力な方法の選択が望まれる。本施設では容易、安価に行うことが可能で、かつ強力な賦活化を実現する家庭用圧力鍋(T-FAL社製:Delicio)を用いた方法*を紹介する。

*抗体により適応外となるものがありますが、大部分の抗体はこの方法に統一しています。

image8 T-FALの圧力鍋。大手スーパー等で入手可能。普通の調理用です。

方法

① コーティングガラスにホルマリン固定パラフィン切片をのせ伸展、水分をきってから70℃で30分伸展後脱パラフィンする。

② 沸騰している1mmol/l EDTA緩衝液 (pH8.0)にスライドガラスを入れ蓋を閉める。

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③ 圧上昇により自動的に蓋のロックがかかった時点から2分30秒間(注)加圧を行う。注)時間は熱源や圧力鍋の違いで変わってきますので、各施設で最適条件を見つけて下さい。わずかの時間差で結果が違います。

④ 終了後は圧を抜き、蓋を開ける。

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⑤ 急冷をさけるため室温で10分間放置後に鍋ごと流水で冷やす。5分間冷やした後に流水水洗後、免疫組織化学染色を行う。ガラスを直接水で急速に冷やしてはならない。本施設では、ほぼオールマイティな抗原賦活化法としてほとんどの抗体に対し行っている。

image11 水は直接鍋に入れているのではなく、下のバッドに入れています。

利点

組織ダメージの軽減温浴法・単純煮沸法・MW法・オートクレーブ法よりも賦活化処理にかかる時間が約3分と著しく短縮されるため組織のダメージが比較的少なく、アルカリ性緩衝液を用いても強力な賦活化が可能である。

大量処理:金属のバスケットにプレパラートを入れたまま一度に大量の切片の賦活化が可能である。

手技統一化:多種多様な抗体に有効であり、抗体によって異なった賦活化法を用いる必要がほとんどなく、手技の標準化の上でも非常に有用である。

安価:圧力鍋は一般家庭用として市販されているものを流用することが可能で、装置としても非常に安価で、全ての施設において導入が可能である。

注意点1 界面活性剤は禁忌!:抗原賦活化において加熱処理に用いられる溶液の中に界面活性剤(Tween20・Triton-X)を0.1%の割合で添加すると、抗原賦活化効果が増強するといわれている。しかし、家庭用圧力鍋に界面活性剤を入れることは非常に危険で絶対行ってはならない

注意点2 内因性ビオチン:熱処理を用いた抗原賦活化法をし、染色システムをABC法・LSAB法でおこなった場合に内因性のビオチン(ビタミンH)の顕在化が問題となる。特に好酸性の細胞質をもつ腫瘍や、ミトコンドリアが多い組織(肝臓、膵臓、腎臓、筋肉、脳など)にほぼ必発である。これを完全に回避することは困難である。

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内因性ビオチンの染色性としては、真の染色よりも暗い顆粒状の染色を主に細胞質内に示すことが特徴である。

また、子宮内膜や胎児型肺腺癌の核内ビオチンにウイルス感染細胞の核様に偽陽性を示すoptically clear nucleiも知られている。(Hum Pathol. 2004 Jul;35(7):869-74)

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各抗体での染色されるべき細胞の部位、すなわち細胞膜か胞体か、あるいは核膜か核であるのかといったことを把握しておくことも重要である。 これらのことに留意すれば内因性ビオチンによる偽陽性であるということは、ほとんどの場合判断が可能であるが、鑑別が困難な場合には抗体をかけずに同様の免疫組織化学染色の工程を行い、それでも陽性であることによって内因性ビオチンであるとの確認が可能である。しかしながら、最も重要なことは内因性ビオチンによる偽陽性の存在を知り、病理医や技師が十分に認識し、強力な賦活化を行った場合のリスクとして、常に把握しておくことである。

コントロール切片の作製法

北大では基本的に全ての免疫染色において対象切片と同一のガラス上に、すなわち全てのプレパラートにコントロール切片がある。 当院では、リンパ球型マーカーの染色には扁桃のコントロール切片をおき、上皮型マーカーやその他のマーカーに関しては多種類の組織が含まれているspring-roll control blockを作製し、多種類の抗体に対応可能なコントロール切片として使用している。spring-roll control blockは多数の種類の組織を含むため、日常的に各抗体の正常組織上での染色性を知ることができるのも利点である。

spring-roll control block の作製法は成書や文献(Ann Diagn  Pathol. 2000 Oct;4(5):329-36)を参考されたい。 spring-roll control blockを作成するためには抗原性を失うことなく組織を保存しておく方法が求められるが、24時間ホルマリン固定された組織を少量トリミングし、pH7.4 PBS 緩衝液中で冷蔵保存しておけば、過固定状態にならずに長期保存ができ、多種類の陽性コントロールセットを作ることができる。

 

 

執筆日:2005/06/20

執筆者:北海道大学病院病理部 丸川活司 marukawa@med.hokudai.ac.jp

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