α-inhibin
Mouse monoclonal antibody
クローン:R1.
メーカー:Dako (#M3609)
希釈倍率:1:50
抗原賦活化:ER2、10分
推奨陽性コントロール:精巣
染色パターン:細胞質
(上記は神戸大病理部での条件(Leica BOND-MAXTM)。抗体は必ずしも全てのメーカーを比較して選択しているわけではありませんので、必ずしも“推奨メーカー”という意味ではありません。)
インヒビンは形質転換成長因子β受容体(TGF-β)ファミリーに属する32kDの糖蛋白で、α(アミノ酸134個)とβのサブユニットがジスルフィド結合したヘテロ二量体のポリペプチドホルモンである。βサブユニットにアミノ酸数の異なる2種類(A:115個,B:116個)があるため インヒビンには インヒビンA(α,βA )と インヒビンB(α,βB )の2種類が存在する。甲状腺刺激ホルモン(TSH) のα 鎖とも同様に相関性が高く、β 鎖の特異性が高い。卵巣の顆粒膜細胞を中心に、黄体細胞や莢膜細胞、胎盤、精巣のセルトリ細胞やライディッヒ細胞などに存在しており、すなわち、ほとんどの性索間質細胞に認められる。卵胞液と血清中では、βサブユニットと結合せずインヒビンの生体活性もない、αサブユニット前駆体とフリーのαサブユニットが存在する。特に下垂体前葉における卵胞刺激ホルモン(FSH)の産生や分泌を抑制する働きがあり、アクチビンと共に、卵胞刺激ホルモンのフィードバック機構を形成している。
(卵胞顆粒膜細胞。左:H&E染色、右:α-inhibin染色。)
(精巣。α-inhibin染色。α-inhibin染色がセルトリ細胞やライディッヒ細胞に陽性となっている。)
用途:
①卵巣腫瘍における性索間質性腫瘍の検出に有用である。
腫瘍組織型 | 症例数 | カルレチニン陽性数 | 1-4+ | WT1陽性数 | 1-4+ | インヒビン陽性数 | 1-4+ |
性索間質性腫瘍 | |||||||
顆粒膜細胞腫 | 10 | 90 | 90 | 88 | 75 | 80 | 60 |
セルトリ・ライディッヒ細胞腫 | 7 | 57 | 57 | 0 | 0 | 71 | 71 |
線維腫 | 7 | 29 | 14 | 0 | 0 | 43 | 43 |
莢膜細胞腫 | 3 | 100 | 33 | 0 | 0 | 67 | 33 |
表層上皮性腫瘍 | |||||||
粘液性腺癌 | 10 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
漿液性乳頭状腺癌 | 13 | 38 | 8 | 92 | 77 | 15 | 8 |
粘液性境界悪性腫瘍 | 21 | 0 | 0 | 10 | 10 | 0 | 0 |
低分化癌 | 8 | 0 | 0 | 100 | 88 | 13 | 13 |
類内膜腺癌 | 11 | 18 | 9 | 36 | 36 | 9 | 0 |
セルトリ細胞様類内膜腺癌 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
その他 | |||||||
明細胞腺癌 | 2 | 0 | 0 | 50 | 0 | 0 | 0 |
ブレンナー腫瘍 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
移行上皮癌 | 2 | 0 | 0 | 100 | 100 | 0 | 0 |
胚細胞腫瘍 | 5 | 20 | 20 | 0 | 0 | 20 | 20 |
癌肉腫 | 3 | 66 | 33 | 0 | 0 | 0 | 0 |
小細胞癌 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
総計 | 111 | 111 | 111 | 97 | 97 | 111 | 111 |
性索間質性腫瘍に対するインヒビンの感度56%、特異度96%
非性索間質性腫瘍に対するインヒビンの感度65%、特異度92%
出典:Cathro HP, Stoler MH. The utility of calretinin, inhibin, and WT1 immunohistochemical staining in the differential diagnosis of ovarian tumors. Hum Pathol 2005;36:195-201.
性索間質性腫瘍に対してはカルレチンの方が感度は高いが特異度は低い。
インヒビン:感度92%、特異度99%
カルレチニン:感度100%、特異度85%
出典:Movahedi-Lankarani S, Kurman RJ. Calretinin, a more sensitive but less specific marker than α-inhibin for ovarian sex cord-stromal neoplasms. An immunohistochemical study of 215 cases. Am J Surg Pathol 2002;26:1477–83.
(自験例(ライディッヒ細胞腫)。左:H&E染色、右:α-inhibin染色。)
②中枢神経血管芽腫と淡明細胞型腎細胞癌の転移の鑑別
α-インヒビンは成人小脳などに発生する血管芽腫の間質細胞の細胞質に陽性となり、淡明細胞型腎細胞癌では陰性である。淡明細胞型腎細胞癌で陽性となるサイトケラチンCAM5.2やCD10、血管芽腫の間質細胞の細胞膜に陽性となるPodoplanin (D2-40)と組み合わせて、中枢神経血管芽腫と淡明細胞型腎細胞癌の転移の鑑別に有用である。
出典:Hoang MP, Amirkhan RH. Inhibin alpha distinguishes hemangioblastoma from clear cell renal cell carcinoma. Am J Surg Pathol. 2003;27:1152–1156.
(自験例(小脳血管芽腫)。左:H&E染色、右:α-inhibin染色。)
③副腎皮質癌と腎細胞癌の鑑別
α-インヒビンは副腎皮質癌で陽性となり、淡明細胞型腎細胞癌では陰性であることから、その鑑別に有用である。
出典:Fetsch PA, et al. Anti-alpha-inhibin: marker of choice for the consistent distinction between adrenocortical carcinoma and renal cell carcinoma in fine-needle aspiration. Cancer Cytopathol 1999;87:168–172.
執筆日:2013/01/24
執筆者:神戸大学医学部附属病院病理診断科 酒井康裕、柳田絵美衣、今川奈央子