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ALK (D5F3および5A4:非小細胞肺癌コンパニオン診断薬)

2023年8月2日

ALK1はこちら

■ヒストファインALK iAEPキット
クローン:5A4(Mouse monoclonal antibody)
メーカー:Nichirei
プラットフォーム:ヒストステイナーあるいは用手法
希釈倍率:Prediluted
1次抗体反応時間:30min
抗原不活化:Heat proⅢが推奨


ベンタナ OptiView ALK 
クローン:D5F3(Mouse monoclonal antibody)
メーカー:Roche
プラットフォーム:VENTANA BenchMark
希釈倍率:Prediluted
1次抗体反応時間:16min
抗原不活化:Ventana, optiview CC1.
推奨陽性コントロール: 虫垂、ALK陽性肺癌

染色パターン細胞質

(抗体は必ずしも全てのメーカーを比較して選択しているわけではありませんので、必ずしも“推奨メーカー”という意味ではありません。)

基礎:

ALK遺伝子は、受容体型チロシンキナーゼの一つであるanaplastic lymphoma kinaseをコードしており、未分化大細胞型リンパ腫においてNMP(Nucleophosmin)と融合する遺伝子として単離された。2007年に肺癌においてEML-4(echinoderm microtubule-associated protein-like 4)と融合したEML4-ALK遺伝子が同定され、癌化に寄与することが報告された。現在ではEML4以外の融合パートナーも知られているが、肺癌ではEML4-ALKが最も多い。EML4ALKはそれぞれ第2染色体短腕上の近い位置に逆向きに位置しており、両方を含む領域が逆位を起こして再構築されることにより、融合遺伝子が生じる(図1)。その結果、EML4-ALK融合遺伝子は二量体形成に必要なcoiled-coil ドメインとチロシンキナーゼドメインを含んでいるため、恒常的に活性を持つことにより、癌化を引き起こす。

 

図1 EML4遺伝子とALK遺伝子の再構成模式図
癌研究会肺がんの原因となる新しい融合遺伝子を発見-新たな治療薬実現への道を開く-より引用・改変

 

用途:

非小細胞肺癌における、ALK阻害剤投与のための患者選別

ALK融合遺伝子は、Anaplastic large cell lymphoma(ALCL)→inflammatory myobiroblastic tumor(IMT)→ALK融合遺伝子肺癌(2007年)の順で報告された。ALKの相手型となる遺伝子は数種類あり、EML4-ALKは肺癌特異的で、肺癌で最も多い融合パターンである。肺癌におけるALK融合蛋白の発現レベルは低いため、ALK1による通常の免疫染色では陽性を得られにくい。ALK肺癌の診断については、クローン・検出系で結果に大きな差があり、クローンは5A4あるいはD5F3、high pHでの抗原賦活化、高感度法(リンカー法あるいはタイラマイド法)を使用することが推奨されている。

2021年時点で、国内では5種類のALK阻害剤(アレクチニブ、クリゾチニブ、セリチニブ、ロルラチニブ、ブリグチニブ)が承認されており、免疫染色においては、ヒストファインALK iAEPキット(5A4)とOptiView ALK(D5F3)がコンパニオン体外診断薬として承認を得ている。
アレクチニブ、クリゾチニブはどちらのコンパニオン体外診断薬も適応の判断が可能であるが、セリチニブ、ロルラチニブ、ブリグチニブについては OptiView ALK(D5F3)のみ適応の判断に使用できる。

神戸大学では、home-brew法としてLeica 5A4でのスクリーニングを行ったのち、OptiView ALK(D5F3)でコンパニオン診断を行っている。Leica 5A4, D5F3とも基本的には、びまん性陽性となり診断に迷うことは少ないが、OptiView ALKキットではシグナル増幅のためシグナル強度は強くドット状陽性となり、非特異的反応が強い傾向があることに注意する(文献1・写真)。また、signet cell carcinomaでは偽陰性と判定されやすい点に注意する。高感度法では、正常の神経系細胞、神経内分泌分化を示す腫瘍など全長ALK発現が見られる点に注意する必要があるが、これらでは多くは不均一な染色性(Checker board pattern)となる。また、腺上皮・マクロファージなどにも比較的強い発現が得られることがあり、基本的には判定対象から外すが、判定困難症例では他の方法での検索が望ましい。

写真:ALK融合遺伝子陽性肺癌(自験例) 


①ALK1:かなり薄い染色性で、判定が難しい。


②5A4(Leica):びまん性陽性


③5A4(ヒストファインALK iAEPキット):びまん性陽性


④D5F3(OptiView):感度・特異性ともに優れ、コンパニオン診断薬となっている。タイラマイドによる非特異的なバックグランドの染色性に注意する。5A4と比べるとまだら状となる。

文献:Marchetti et al. J Thorac Oncol 2016; 11;487-495

執筆日:2021/9/27

執筆者:神戸大学病院病理部病理診断科 神保直江、伊藤智雄

 

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