免疫組織データベース~いむーの



WT1

2012年12月13日

Mouse monoclonal antibody

クローン:WT49

メーカー:Novocastra (NCL-L-WT-562)

希釈倍率:1:40

抗原賦活化:EDTA buffer 20分処理

推奨陽性コントロール:精巣セルトリ細胞、子宮筋層・子宮内膜間質

染色パターン:

(上記は神戸大病理部での条件(Leica BondMax)。抗体は必ずしも全てのメーカーを比較して選択しているわけではありませんので、必ずしも“推奨メーカー”という意味ではありません。)

 

WT1 遺伝子は小児の腎腫瘍である腎芽腫(Wilms腫瘍)の原因遺伝子の一つとして単離された遺伝子(11p13)で、ジンクフィンガー型の転写因子をコードし、その蛋白は血小板由来成長因子α鎖やインスリン様成長因子IIのような様々な増殖関連遺伝子の転写を調節し、転写活性化因子あるいは抑制因子として機能している。一部のアミノ酸の欠失によるアイソフォームが存在する。WT1 mRNA は中胚葉系由来組織で強く発現し、ヒト胎児の発生過程で、腎臓、脾臓、生殖腺の中胚葉系細胞や体腔の中皮細胞などで発現が観察されており、主に精巣、卵巣、子宮、腎といった泌尿生殖器の形成に関係している。WT1遺伝子は、当初は癌抑制遺伝子とされたが、現在では癌遺伝子の機能を果たしていると考えられている。WT1蛋白は、混合型・上皮型の腎芽腫をはじめ、白血病やほぼ全ての種類の固形癌に高発現する汎腫瘍抗原である。近年、WT1ペプチド癌ワクチンによる免疫療法が注目されている。

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(正常の精巣セルトリ細胞)

 

用途:

①上皮型胸膜悪性中皮腫と肺腺癌の鑑別に有用。

中皮腫マーカーとしてカルレチニン、CK5/6、Podoplaninと共にWT1があげられている。肺腺癌に陰性で、70~95%の上皮型胸膜悪性中皮腫の核に陽性となる。

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(自験例(上皮型胸膜悪性中皮腫)。左:H&E染色、右:WT1染色)

 

②上皮型胸膜悪性中皮腫と肺扁平上皮癌の鑑別に有用。

中皮腫マーカーとして唯一有用なものはWT1と紹介されている。肺扁平上皮癌に陰性で、95%までの上皮型胸膜悪性中皮腫の核に陽性となる。

 

③上皮型胸膜悪性中皮腫と腎細胞癌の鑑別にまずまず有用。

中皮腫マーカーとしてのWT1は70~93%の上皮型胸膜悪性中皮腫の核に陽性となるが、4%の腎細胞癌にも陽性となる。

 

④腹膜悪性中皮腫と非婦人科的腺癌(胃、結腸)の鑑別に有用。

カルレチニンと共に有用なマーカーとしてWT1があげられている。43~93%の腹膜悪性中皮腫に陽性だが、胃腺癌は陽性3%、膵腺癌は陰性。

出典:Husain AN, et al. Guidelines for pathologic diagnosis of malignant mesothelioma. 2012 update of the consensus statement from the international mesothelioma interest group. Arch Pathol Lab Med 2012;136:1-21. (以上①~④)

 

⑤漿液性腺癌

卵巣、卵管、腹膜原発漿液性腺癌でびまん性に強陽性で、類内膜腺癌や明細胞腺癌、粘液性腺癌との鑑別の他、子宮内膜漿液性腺癌との鑑別にも有用である。

出典:Barcena C, Oliva E. WT1 expression in the female genital tract. Adv Anat Pathol 2011;18:454-65.

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(自験例(高悪性度漿液性腺癌)。左:H&E染色、右:WT1染色)

 

 

執筆日:2012/12/13

執筆者:神戸大学医学部附属病院病理診断科 酒井康裕、柳田絵美衣、今川奈央子

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